繁華街から少し入った薄暗い路地にその店はあった。
見た目は寂れた雑貨屋だったが、実はあらゆるものを手配してくれるという闇の一面も持ち合わせていた。
俺は店主に「ある物」の製作を依頼しようとしていた。
「オヤジ、これがその図面だ、無理を言って描いてもらった」
ポケットから一枚の紙を取り出し、カウンターに広げた。
「こいつを是非作って欲しい…」
広げられた図面を見た途端、それまで死んだカエルのような濁った目をしていた店主の目が大きく開いた。
「こ、これは…?」
店主はかなり興味を持っているようだ。図面を持つ手がわずかに震えている。
「なんて美しいデザインなんだ…あんた、これを本気で作れというのか?」
冷静に問いかけているつもりのようだか、ゴクリと喉が鳴った。
「ああ」
「これを…取り付けるのか?」
「ああ」
俺は同じように返事を繰り返した。
「こんなもの付けて…お上の目に触れたらっ…」
「しっ…静かに」
俺は自分の口に人差し指をあてて店主の言葉を制した。
「いいか、これは出来上がるまで絶対に秘密だ」
小さく頷いた後、店主はやや声を小さくして言った。
「しかしこれは凄いぞ…きっとこれを見たら欲しがる人間が大勢出てくるはずだ」
俺は店主の言葉を無視するように続けた。
「数量はここに書いてある通りだ」
俺は丸めた紙幣をカウンターに置き、店を後にした。
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一週間後、再び俺は店を訪れた。
「待ってたぞ…これはワシの生涯でも5本の指に入るほどの出来じゃ」
カウンターに小さな包みを乗せながら、店主はニヤリと口元を歪める。
俺は黙ってそれをを開けた。
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